「日本てさ、1億人以上いるんだよね、人」



定期テストも終わった夏休み直前。
午前で授業が終わるこの期間に午後まで学校に残っているのは部活がある人か追試がある人か、
よほど勉強熱心な人かのどれかだろう。



そのどれでもない理由で教室に残っている私は、静かにシャーペンを走らせる勉強熱心な幼なじみ兼彼氏的存在を眺めていた。



「正確には約1億2千7百万人だ。…それがどうかしたのか、というかどこやらそんな話が出て来るのだ」
手を動かす速さは変えないで、目だけを私の方にやる。
常に学年トップという輝かしい成績を持つ彼、毛利元就のおかげで私もすべての教科で追試回避という偉業を成し遂げた。
まったく、頭が上がらない。
いや、ホントに。




「いや、別にふと思っただけなんだけど…」
「何だ」
「1億ってすごい数だよね、一人から1円ずつ集めても一億円だよ?」
「…そのような下らぬ事を考えている頭があるのなら、公式の一つでも覚えたらどうだ」
呆れの色をおくびも隠さず、つまらなさそうに呟いた。


「まあ聞いてよ、
 だからさ…私と元就が出会える確率の分母も1億以上で、
 世界規模で考えると60億以上で、
 時代とかも入れるとすごいことになる訳で、」


いつの間にか、ペンを走らせる音が止んでいる。


「それがどのくらいなのか分かんないんだけど、つまり、
 今ここでこの時間に元就と私が一緒にいる確率ってすっごい低いんだよね」


「うーん…なんか自分でも何が言いたいのかよく分からなくなってきたんだけど……よーするに…」

そこまで言って、私は今とても恥ずかしいことを言おうとしてたことに気づいた。


「要するに、何だ」
中途半端に口を開けて固まる私は、きっと間抜け面。



「…っと―あー……何でもない、忘れて」

へらり、とごまかして笑うと、不機嫌そうな顔が不機嫌な顔になる。

フン、と鼻で笑う音が聞こえた。
「難しいことを考えようとするからだ、馬鹿者が」



そう言って目線をノートに戻す秀才は、きっと私の考えてることなんてお見通しなんだろうな。


だってほら、さっきよりほんの少しだけ眉間のしわが減っている。












私は心の中だけで、さっきの続きを呟いた。




「私は今きっと、幸せなんだろうなあ」















幸せの定義



なくなってから気付くなんて悲しすぎるよね!







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学園バサラで元就さまです。
先にネタができたのですが、誰にしようかと考えたあげくに元就さまに…。
節操無くてすみません。


そして学バサアンソロが手元になかったので…公式とちょっとずれてますが、まあ…大目に見ていただけるとありがたいです。


080723  緋桃