「只今帰りましたよっと…」


私がそう言って自室の障子を開けたとき、ちょうど日が山の端から昇ろうとしていた。


あーあ、夜明け前に帰ってくるつもりだったのに。

だんだんと茜色に染まっていく空を見ながら、私は一人毒づいた。


ずるずると体を引きずるように部屋に入り後ろ手で障子を閉めた。

部屋のすみにある文机の上に「土産」を置いて、畳が汚れるのも構わずに寝転がる。

「疲れた…」

無意識にそう呟いて、私は目を閉じた。
半刻ばかり寝ようとしたのだが。






「Hey !今日はずいぶんと遅い帰りだったな!」
スパーンといい音を立てて障子が開き、輝き始めた朝日を背景にそこに立つのは私の主とその側近。

政宗は寝巻に羽織一枚、片倉殿は軽装に二本差しの姿でずかずかと私の部屋に入ってくる。



「…梵。障子が痛む。もっと静かに開けて」

手をついて上半身を持ち上げる。
頭がガンガンした。

「梵っつーなってんだろ。You see?」

「うん、わざと」


私の正面にあぐらで座った政宗にそう言ってやると、額に青筋が見えた。

「てめェ…」

「人の安眠を邪魔した罰です。…あー片倉殿、抜刀はなしで」
今にも私に斬りかかりそうな側近殿をなだめると、彼は柄から手を離して政宗の後ろに静かに座ったがまだお怒りのようだ。

、帰って来たらま ず政宗様に報告するように言ってあるだろ。これで何度目だ貴様…」

それがお怒りの原因ですか。

「Ha!そうカリカリすんなよ小十郎。今から聞きゃあいい事だ」
政宗がニヤニヤと笑っている。


「…それじゃ、ご報告申し上げます」
正座をして、姿勢を正す。

こうする事で私たちは幼なじみから城主とその忍の関係になる。


「兵力は武田が圧倒的に上。
 北条は城門を閉ざし徹底籠城の構えですが兵はずいぶん疲弊している様子。
 すでに武田は城外の制圧をしています。2、3日中に落ちるでしょう」

「Hum...あの男はどうだった」

「…真田公はあいもかわらずご壮健でしたよ。今回の本丸攻めも先陣、単騎で一番槍でしょう」


私がそう報告すると、若い伊達家城主は少し考えた後、ふぅ、と小さく息を吐き出した。


「OK.小十郎、軍議の支度だ。あいつら集めておけ。今後の動きを決める」

「承知」

主が左目だけ動かして側近に命じると、彼は短く返事をして足速に部屋を出ていった。


、今回もご苦労だった」

「伊達家の忍としての命、殿の御命令のままに」
そう言って、最後に一礼。

これでまた私たちはただの幼なじみに戻る。



毎回、公と私を完全に分けるために私が勝手にやっている儀式みたいなものだ。

それにわざわざ付き合ってくれる政宗もありがたいけど。

















「んで、何か他にHappeningとかなかったのかよ」
具足を解き、姿勢を崩してぐだぐだしている私に政宗が煙管片手に聞いてきた。


忍に向かってハプニングがなかったかとか聞くのもどうかと思ったが黙っておく。

「…あ。ちょっとムカつく武田の忍に会った。あの忍、いつか殴る」

「Aha、アイツか。確かに、お前とはウマが合いそうにねェなァ。他にはねェのか?」

「特には。ていうか政宗、私3日間くらい寝てないんですけど。そろそろ限界なんですけど」
自分でも驚くほど機嫌が悪い。

全ては眠気のせいなのだが。



「Ahー分かった分かった」

政宗が立ち上がり、部屋を出かけたところで「土産」を思いだして慌てて彼を引き止める。

「ちょ、まって政宗!一つ忘れてた」

「An?」

立ち止まった政宗に机の上の物を手渡す。


「はい、お土産」

「土産って…これ桜じゃねェか」
土産は花が咲いてる桜一枝。

「小田原の桜があまりにきれいだったからさ、ちょっともらってきたの。こっちじゃまだ桜は咲かないでしょ?」


でも、雪は溶けている。

奥州にも春は確実に近づいてきている。


「…そうだな。桜が咲くころにはまた戦だ。それまでちょっと休んどけ。…これ、部屋にでも置いておく」

「うん、とりあえず寝る。政宗も今のうちに政の仕事とかやっちゃいなよ」

どうせ戦が始まったら滅多に城に帰ってこないんだから。


私も人の事言えないけど。



「…Ha!」

血の気盛んな筆頭はそんな私の心配を鼻で笑って部屋を出ていった。





目を閉じると、少し残った桜の香りがした。


春は、もうすぐそこ。
















春よ、来い






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言い訳。
初・政宗様夢です。
何なんだろうな…コレは……。
春の暖かさで頭がイカレちゃった緋桃の戯言だと思ってください。
眠い眠い言いながら携帯でチマチマ打ってたヤツなので。
相変わらず名前変換少なくてスミマセン。
背景目に痛い色で重ね重ねスミマセン。


070408 緋桃