「好きでした、」

の声はよく通る。
俺はこの声が好きだった。

だのに、何故、


遠くで梟の鳴く声が聞こえた。
いつもなら煩わしいと思う十六夜の、やけに明るい月明かりのせいで、
それに自分の元来の夜目の良さも加わっての目も、口も、よく見える。

笑っているような、
泣いているような、
そんな無表情をしていた。


俺の手がの首にからまる。
の手が俺の手にからまる。

「大好きでした、」

澄んだ声は俺を素通りして四散していく。


だんだんと、力を入れる。
は苦しそうな風でもなく、相変わらずの感情の読めない表情をしていた。

「あなたの手で死ねるのなら、私は幸せです。
 だから、どうか泣かないでください」

の声が振動となって手を伝わる。
俺はそれを止めようとさらに力を入れる。
視界が少しぼやけていた。

涙なんてものの出し方なんざとうの昔に忘れたと思っていたのに。
ぼんやりとした頭の片隅で考える。
最後に泣いたのはいつだったか。記憶にないほど昔だ。

そもそも、何で俺はこっそりと思いを寄せていた女の首を締めているのだろうか。
霧がかかったような記憶を手繰るが、どうにも思い出せない。
忍び失格だ。


ただその根底にはどろどろとした怒りがあった。
許さない、許さない、とそれは呟く。
醜い声で、
それは呟く。

ホゥ、と一声、また梟が鳴くのが聞こえた。





相変わらず視界は水の中にいるようだったが、目の前にいる女の顔はよく見える。
それしか見えない。


「さようなら、最愛の人」



の口が静かに動いて、
俺の中の怒りが大きくうねって、

ごきり、と音が響いた。

遠くで、梟が飛び立つ音が聞こえた。






殺すのならば、あなたの愛で


(アンタはそれで、幸せだったか?)





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言い訳。
とても生産性の無いものを書いてしまった気がします。ていうか沖田さんのと多少かぶってる気が。
佐助の一人称は俺様推奨ですがモノローグは俺でいいと思います!(何の主張だ)
あ、佐助一言もしゃべってないですねコレ。

080229 緋桃