帰ってきて。必ず、ここに。
 貴方の帰ってくる場所は、ここでしょう?







帰る場所








 真選組の任務は、危険なことが多い。今回もまた、「危険」に当てはまる任務だった。

 攘夷派によるテロだ。既に何人かの隊士が向かったが、全員傷を負っている。死者がいなかったのが不幸中の幸いだ。


 一般の隊士では手に負えないということで「鬼の副長」こと土方が直々に出向くことになったのである。



 は怪我をした隊士の治療を手伝っていた。彼女は真選組の女中であり、ことあるごとに怪我をする隊士たちの傷の手当てをしている。

 もっとも、副長の理不尽な暴力の後始末も多いのだが。


 それはともかく、隊士の怪我は酷いものだった。軽傷者は奇跡的にもかすり傷程度で済んでいるのだが、重傷者は動くことすらままならないという有様だった。

 最初は傷の状態にひるんだものの、その後は懸命に隊士の世話をしていた。


「すいません」

「あら、何? 

 は先輩の女中に声を掛けた。お互いの手が赤く染まっているのを見て、吐き気のようなものがこみ上げてくる。


「少し出てきてもいいですか? ちょっと外の空気吸いたくなっちゃって・・・・・・」

「いいわ、こっちも一段落ついたし。少し休憩してきなさいな」


 立ち上がり、洗面所へ向かう。手を洗うのと――このどうしようもない吐き気を、解消するため。

「っ・・・・・・はぁ」

 出すものを出し切ってしまうと、少しはマシになった。口の中に胃液の苦い味が残り、不快感が完全には消えないが。


 隊士が戦っているのは分かっている。自分たちがその後方支援をしなければならないことも。

 彼らの傷は冗談ではなく本気で戦った証で。それを、怖いと思う自分がいて。


「最悪だ・・・・・・」


 ぽつりと、は呟いた。





 そのまま、は庭へ出た。皆が忙しく走り回っているときに、一人だけ休んでいるのは少なからず罪悪感を感じたが、戻る気にはなれなかった。

「・・・・・・あれ」


 ふと顔を上げた拍子に、いつの間にか隣に土方がいたことに気づいた。黙々とタバコをふかし、こちらを見ている。


「なんか用ですか? 土方さん。つーか怖いんであんま見ないでください」

「目つきの悪さは生まれつきだコノヤロー。てめぇこそ何してんだ」

「休憩中です。土方さんは?」

「何でもいいだろ」

「まぁ何でもいいですけど」


 それを言ったら会話が続かない、という言葉は言わずにおいた。

 実際、その後数秒間沈黙が続いた。



「今度は土方さんも行くんですよね」

 が口を開いた。沈黙に耐え切れなくなったらしい。

「ああ」

「死んだら総悟君に副長の座を奪われますねぇ」

「死ぬか!!」



「分かんないじゃないですか」



 ぽつりと、だがはっきりは言った。


「死なないなんて、言い切れないですよ! 数時間後にもしかしたら土方さんが死ぬかもしれないでしょう!?」


 じっと庭を凝視しながらは叫んだ。決して土方を見ようとはしなかった。

?」

「皆、帰ってこないかもしれないっ・・・・・・今日は、全員帰ってこれた。でも、明日は? 明後日は? 帰ってこれるんですか?」
「――。オレは」


「副長ー、そろそろ出発しませんかー!?」

 隊士の一人が廊下を駆けてくる。土方は顔を上げた。


「全員準備できてるか」

「はい」

「・・・・・・先に行ってろ、五分くらいしたら行く」

 を見て察したらしい隊士は、敬礼して元きた方へ戻っていった。





 土方はタバコを口から離し、ふっと息を吐いた。白い煙が口から出て、やがて虚空に消えた。



「俺は帰ってくる。――死なねぇよ」



 土方はの頭をぽんと叩いた。そのとき、初めては土方を見た。


「土方さん。カッコ悪くても、ボロボロになってでもいいから・・・・・・帰ってきて」

「カッコ悪いもボロボロも余計だ。普通に帰ってきてやるよ」


 再びの頭を叩くと、土方はさっさと歩いていった。その後姿を、はじっと見つめていた。








 テロは無事に真選組の手によって制圧された。主犯者には逃げられたが、死人が誰一人でなかったことで良しとされた。


 屯所に戻ると、女中や負傷した仲間から声を掛けられた。土方は無意識のうちに、を探した。だが、見つからない。


「オイ、はどこにいる?」

 適当その辺にいた女中に訊くと、「庭にいたよ」と返ってきた。

 土方は隊士達の群れから離れ、一人庭へ向かった。

 縁側に座って、庭をじっと見つめるがいた。土方は少しだけ笑うと、彼女の前に立って言った。


「帰った」


 は一瞬ぽかんとした表情をした後、微笑んだ。



「お帰りなさい、土方さん」






















おまけ


「何でカッコつけてるんですか、土方さん」

「あぁ?」

「『帰った』って・・・・・・カッコつけたポーズで・・・・・・ぷっ」

「そこは笑うとこじゃねぇぇぇ!!」

「土方さんの顔が笑えるとかって言うよりいいじゃないですか」

「テメェ殴られてぇのか!?」











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甘くないね! ごめんなさい・・・
光陰矢の如し(略)記念のお返しがだいぶ遅くなりました。
こんなものですが貰ってやってください。
2005.5.22  高村隆



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Repeaterの高村隆くんより、光陰矢の如し(略)記念のお返しリク…土方さんの甘いの。
…ヤバいよコレぇぇぇ!!!!!
萌だよ!!萌だよォォォ!!!!(うるさい
もう吐血せんばかりの勢いですヨ。

このサイトは糖分不足してますからねー。
隆くんからの頂き物は貴重なオアシスです。

ありがとうございましたー!!!!!!