衝撃のカミングアウトから立ち直れないまま、私たちは南へ向かっているようです
衝撃を受けたのも立ち直れてないのも私だけだけどね…





春色梅暦     五色月






「でも、良かったんですか?」
「何が?」
松風が山道をゆったりと歩く中、私は後ろにいる慶次さんに聞いた


「えっと、その、
 藤次郎さん…じゃなくて、政宗さんとちゃんと会ってないじゃないですか、慶次さん」
「ああ、その事か
 会うも何も、俺はあいつに椿を紹介したくて行ったんだ」


「……はい?」


「いやーなんか、って面白いからさあー、あいつにも紹介しねーとなって思って!」
あっはっは、と朗らかに笑う慶次さんに、


ほんの少し、


ほんの少しだけ


殺意が湧きました。









「というか、基本的なこと聞いていいですか?」
「ん?なんだ?」


「ここ、何処ですか」
さっきからずっと同じ景色
山の中をゆっくりと歩いている


「上野さ」
「こうづけ……?」
「そ、…そろそろ武田と上杉の境かな」


武田とか上杉とか、授業で習った超有名武将にも驚いたけど、私はこうづけという地名がどの都道府県にあたるのか考えるので精一杯だった







それから数日間、また同じ景色の中を私たちは進み続けた
そろそろ私のおしりが限界に近付いてきたころ、やっと本格的な町?のようなところに到着した


松風を預け、慶次さんは大きく伸びをした
「さて、じゃあ今日はここで宿をとろうか」
「今日は野宿じゃないんですね!」
「はは、嬉しそうだなー」
私のはしゃぎようを見て、慶次さんがちょっとあきれながらつぶやいた


だって数日ぶりの布団だよ!?
そりゃあ、うきうきしないわけにはいかないじゃない!








***






伊達さんとこの城下町に比べると規模が小さいけど、そこはちゃんとした町だった
行き交う人たちも活発で、忙しそうだ


それにしても、心なしか町全体が賑やかな気がする
そんな気は慶次さんもしていたようで、
「なんだかさわがしいなあ」
とからから笑っていた


休憩に立ち寄ったお茶屋さんで、ついに慶次さんがお店のおじさんに尋ねた
「ところでさ、何か祭りでもやんの?」
目をきらきらと輝かせる慶次さんに、おじさんは納得したような顔で答えた
「ああ、そういえばあんたらは旅人だったね
 あっちに大きな城が見えるだろ?
 今日はあそこの城主、幸村様が甲斐から戻られたんだ
 祭りってわけじゃねえが、みんな歓迎してんのさ、領主様を」
「ふぅん、幸村…様…ねぇ…」
慶次さんの目が、違う意味で輝いた…気がした


お茶屋さんを出て、のんびりと歩きながら慶次さんが口を開いた
「幸村って奴は、強いんだろーなぁ」
「まあ…そうでしょうね」
「そっかーそっかー」
「…慶次さん、何か変なこと考えてません?」
「え、べ、別に?」
いや…もう態度でまる分かりですよ……
目を泳がせてどもるなんて、そんな古典的な!


「いやーただ俺は…そんなに強い奴ならいっぺん喧嘩してみたいなあー…って」


それが変なことですよ!何言ってるんですか!
普通殿様ってそう簡単に会えるものじゃないんですからね!


のんきに呟く慶次さんに、私は心の中でつっこむ事しかできなかった
そして、私はこの時もっと必死に止めればよかったと後で後悔することになるとは毛ほども思いませんでした







***





「そうだ、城へ行こう」


「…はい?京都ですか?」
某鉄道会社のCMのようなことを言い出す慶次さん
わたしのつっこみも聞き流し、すたすたと歩きはじめた
私もその後ろを追いかける
「あ、あの慶次さん…?どこへ?」
「だから、城だよ?」
「…城に、何をしに?」


まいった
いやな予感しかしない


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、慶次さんはあっさりと言い放った




「ちょっと喧嘩売ってくる」






***




「善は急げっていうだろー」
「急がば回れともいいます
 だから考え直してくださいお願いします」
そもそも、喧嘩を売りに行くのが善だとも思えません


だけども慶次さんは私の言葉に耳を傾ける気はさらさら無いらしく
歩調を緩めようともせず歩き続ける


「ちょっと遊びに行くだけだって」
「いやいやいや……だって城ですよ?お殿様ですよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「何が大丈夫だって言うんですか…」
だけども私は半分以上諦めてるわけで、



「まあまあ、とりあえず行ってみるってことで」



笑顔でそう言う慶次さんに、ため息をつきながらついて行くしかなかった






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まさかの変換無し…←嘘です 一か所ありました
そして変換設定してませんでしたすみません!修正しました

気分的には間章なので短いです(090324)