見渡すと、一面雑木林
今私がいる、細い道が一本だけ通っている
鬱蒼と茂った木々の間からはどこかの立派な建物が見える
まるでお城のようだ
或いは、本当にお城かもしれない


―ああ、またあの夢だ


最近同じ夢ばかり



…二十八、二十九、三十


心の中でたっぷり三十秒数えると、またいつもと同じ声が聞こえる


「―――!」
何を言っているのかは分からない
でも、名前を呼ばれた気がして振り向く


するとずっと遠くで誰かが手を振っている
とても目立つ派手な出で立ちで、何かを言いながら




―ねぇ、あなたは誰?


そんな遠くじゃ顔が見えないよ


もっと近くで、



瞬きをすると、雑木林は影形もなくなる
代わりに目に入るのは、自分の部屋の天井







春色梅暦    年端月









「あーもうホント、一種の嫌がらせですよね、コレ」
毎朝恒例の台詞を言いつつ、もぞもぞと布団を抜け出す
長い付き合いの目覚まし時計を見ると、セットした時間よりも10分早い


最近は毎日毎日全く同じ夢を見る
起きるのも決まって同じ時刻
だから目覚まし時計も仕事をしていない


夢は深層心理を表すだの何だのってよく聞くけれど、
だとしたらいったい自分の深層心理は何を訴えたいのだろうか
森林浴にでも行けということなのでしょうか




ダイニングに行くと、母親が台所で朝ごはんの支度をしていた

「お母さんおはようございます」
「はい、おはようさん。今日も早いのね」
…別に親子関係が複雑とか、そんなのじゃないです


ただ、昔からの癖というか、母親の教育というか
世間のお嬢さんたちは母親と友達のように話しているということを知ったときは驚いた



昔、一度母親に聞いたことがある
すると、母は目を少しだけ細めて
「敬語という物は、見に着けておいた方がよいということですよ」
と答えた
なるほど、と納得したのを覚えている






朝のニュースをぼんやりと聞きながら朝ごはんを食べ、身支度を済ませる


「ああ、お母さん。今日は友人が委員会があるそうなのでそれが終わるを待って帰宅します」
「分かりました、さん。気をつけてくださいね」
「はい。それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関口でいつもの会話をして、学校へと向かう


学校へは、徒歩15分くらいの距離だ
いつもと同じ通学路の住宅街を通り、今日の時間割を思い出す

一時間目は確か英語だったと思う
(ああ、嫌だな…)

はあ、と溜め息をつきながら歩く


すると突然、一人の少年が前方から駆けてきた
小学1、2年生くらいの子だ
別にこの時間にそのくらいの年頃の少年がいるのは何ら不思議ではないが、変わっているのはその子の服装だった


和服、というか神社のお祭りでみるお稚児さんみたいな派手な格好をしている


はて、今日はお祭りでもあったっけ、
と思案しているうちにその子は私のすぐ近くまで来て、にっこりと笑いかけた
それにつられて笑い返すと、今度は私の手を取って引っ張り始めた


「ええと…?」
急な事で、対応ができない
少年は振り返ってニコッと、
それはもうハートマークがつきそうな感じの可愛らしい微笑をするだけで一向に放してくれる気配がない


ぐいぐいと引っ張っていくので無下に振り払う訳にもいかず、促されるままに歩いていく
しかし、困った事にその行き先は学校から着実に離れていっている
このままではまずい、学校に遅刻する(お母さんに何と言い訳すれば!)



「あ、あの少年?私、学校があるのでそろそろ…放していただきたいな……と」

すると少年はまた振り返って微笑み、さらに強い力で私の手を引く
そんな小さな体のどこにそんな力があるのか、
有無を言わせないという雰囲気で(本人は楽しそうに)道をずんずん進んでいく


…少し恐怖心が生まれました




そうしているうちに、見慣れないところに来てしまった
道の左右には相変わらず住宅がいくつも立ち並んでいるが、見覚えのある家がない
(どうやって帰ろう…)


もはや学校なんてどうでもいい とにかくこの少年に解放してもらい家に帰りたい
少年は住宅街の一角にひっそりとある神社に私を連れ込んだ


背の高い木々が空を覆い、昼間だというのに境内は薄暗い
すると少年は一直線に社に向かい、その戸を開けた


え、それってそんな簡単に開けていい物なの?
と疑問に思いながらもその少年に引きずられるようにして社の中に入っていく


ていうか靴!靴脱いでないけど!
しかし少年は靴を脱ぐ暇さえ与えてくれないようなので心の中でごめんなさいと言いながら土足で失礼させていただく事にした(申し訳ない)


私が社の中に入った後、少年が戸を閉めると社の中は真っ暗になった
すきまからの光もない


というか何かおかしくないですか


普通に在りえなくないですか



冷や汗が流れる
少年に掴まれている手に全ての感覚が集まる



「少年…あの……」


「貴女でないと駄目だから」

「はい?」
あの少年の声とは思えない落ち着いた声が聞こえた
しかも女性の声だ



「だから、お願いします」



なにを、と問う暇もなく、体がぐるんと回った気がした








(平衡感覚おかしくなっちゃってもう訳分かんない!)






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見切り発車的バサラトリップ。 キャラが出てこないよ! (080419)