真選組入隊。

沖田さんから言われたときはそこまで真剣に考えられなかったけど、

私、真選組に、入ったんだ!


え、これ、マジ夢小説的展開じゃない!?




#7.




目の前で土方さんや近藤さんや沖田さんが動いてるってだけで私のテンションは常にマックスだし、
ていうかもう、同じ空気を吸ってるっていうだけで
「TO☆KE☆TSUものですよね!」
グッとガッツポーズをして力説する私に、

『黙れ変態』

杉田ボイス、もとい銀さんの声が突き刺さった。
「やだなあ!銀さん、嫉妬してるんですか?
 大丈夫ですよ!私は銀さんに会ったときもうっかり昇天しかけるほど嬉しかったですって!」
『アホなこと言ってんじゃねーよ』
電話口から呆れた声とため息が聞こえた。

「アホだなんて!失敬な!」
『ノリでンな物騒なとこ入るヤツはアホ以外の何者でもないだろ』

う、ちょっと言い返せない…。

場所は真選組屯所。細かい場所はよく分かんないけど休憩室的なところ。
面接後、新八に報告しようと思ったら、彼はすでに帰宅させられていた。
しょうがないので、近くにいた隊士さんに電話貸してください!と言ったらこの部屋の電話のところに案内された。
部屋には、なぜかマガジンがずらりと置かれている。
ええい、ジャンプはないのか、ジャンプは。
銀さんにもらった名刺の番号を押してちょうど5コール目に家主のだるそうな声が聞こえてきた。



***



『はい万事屋…』
『もしもし銀さん?キャー!電話越しの声も素敵!萌えだよ!MOE!!』
『切っていいか』
『ちょ、待ってよ!こんなこと話すために電話したんじゃないんだから!』
『じゃあ早く要件を言えよ要件を
 ってそういえば電話ってお前、どこから…』
『そう!それだよ!ジャストだよ!重大発表です!』
『………』
『私、真選組に入隊しました!』
『…お前それ、本気で言ってんのか』
『本気も本気!超マジだよ!』
『あー……何でだ?何でそうなった?』
『ええと…ノリで?』


真選組屯所の、どこか。
監察と幹部の一握りしか知りえないという、とある部屋。
窓が無いために圧迫感を感じるその部屋には所狭しと電子機器が置かれている。
いくつかあるモニターには、屯所の様々なところに取り付けられた監視カメラの映像が映っている。
その中の一つ、小さいスピーカーから、その声たちは聞こえてくる。

「えーと、土方さん?」
機械に囲まれて蛍光灯の光を浴びながら、俺は後ろにいる上司に声をかけた。
「何だ、山崎」
その上司はたばここそ吸ってないものの、いつもと同じように鋭い目つきで俺をにらむ。
「この子…、さんでしたっけ?
 彼女、ここの電話が普通に盗聴されてるとか思わないんですかね?」
「思ってねえんじゃねえか? だからこんなバカみてえな会話してんだろ」
俺達がそんな会話をしてる間も、スピーカーからは会話が流れ続けている。
(土方さんが見張れっていうからどんな切れ者かと思ってたら…)

内心で溜息をつきながら、俺はその声に耳を傾け続ける。
その溜息が、期待外れの寂しさから来たものか、それともこの会話の内容に対する呆れから来たのかは分からない。
始終ハイテンションな彼女は、やっぱりどこか頭のネジでも飛んでいるんだろうか。
「とりあえず、俺はこの声には聞き覚えありませんね。
 あと、一応会話中にはそれらしい隠語とかはありません、て言っても、俺が知ってる言葉に限って言えば、ですが」
そう報告する俺に、上司は少しだけ目線を動かす。
「あいつを、明日一日準備のためだと言って泳がせる。
 それ見張っとけ」
「はい、分かりました…」


なーんて素直に返事したけど、
「見張っとけって言われても…」
そこまで注意人物だと思えない俺は監察失格だろうか。





***



「とりあえず、今日はここで寝てくれィ」
沖田さんに案内された部屋は…なんだか物置みたいなところでした。

「あの…えーっと……ずいぶんと物がたくさん置いてあるんですね…」
元は広い部屋なんだろうけど、たくさんの物が乱雑に置かれていてその面影は残っていない。
かろうじて空けましたーというような隙間に布団が置いてある。
「そりゃあ、ここは物置だからなァ」

(ものっそいビンゴォォオオ!!)

「えええええ ま、まさかの…!?」
「文句言うんじゃねェよ、男どもと一緒の部屋でもいいってんなら別だけどな」
「…それは、ちょっと……、ほら、私、女の子ですし?」
「……じゃ、朝は6時半起床だからな、ちゃんと起きろよ」
「ちょっ……!スルーが一番傷つくんですから!」
このドS…!
「隣は女中共の部屋だィ、何か分かんねェことはそいつらに聞きな」
女中っていうと、お手伝いさん的ポジションの?
「あ、はい」
「ああ、あとてめェは明日一日非番だってよ、土方が言ってたぜィ」
良いご身分だなァ、と沖田さんは表情を変えずに言うから困る。
「え、あ、はい…何かすみません…」
「謝るこたァねえよ、準備のための非番だ」
沖田さんは、また表情を変えずに言った。
(この人…読めない…!)
その後も沖田さんは、お金は給料の前借分を明日渡すこと、非番とはいえ初日だから朝の稽古には出ること、その後の会議で隊長さんたちに紹介すること、エトセトラをだるそうに伝えて去って行った。
それを聞いている間、
(鈴村ボイスたまんね!)
「なんて思ってたなんて口が裂けても言えないね!
そもそも伝える相手もいないしね!やべっ!さみしい!」
沖田さんがいなくなり、元物置に残された私の声は周りの荷物に吸い込まれていった。
これが夢小説なら沖田さんの顔も多少赤くなるようなハプニングもある感じなんだろうが、残念ながらそんなことはなかった。
「やっぱり私はヒロイン向けじゃないんだろうなー」
可愛くないしなー。
と、かなり恥ずかしい独り言をつぶやいていると、
「あ!ホントだ!」
「いるいる!」
不意に部屋のふすまがちょっと開いて、外から数人のお姉さん方の声が聞こえてきた。
お姉さんたちはきゃいきゃいと高い声でテンションも高く騒いでいるのだけれど、盗み見してる意味…無くない?
軽く珍獣の気分になりながらも、誰も私に状況を説明してくれないとは何事か。
つまり…私はどうすればいいの?
とか思っていたら、今度はふすまがしっかりと開いて、一人の女の子が部屋に入ってきた。
女の子と言っても、たぶん年は私と同じくらい。
「はじめまして」
私の前にピタリと止まって、その子は笑顔で話しかけてきた。
そしてその笑顔は、
(かわいい…!最高にかわいい!!)
「はっ…はじめまして」
「ここに入隊する女の子ってあなたでしょう?
 私…私たちはこの屯所で女中やってるの」
そういえば、隣は女中さんたちの部屋…だっけか。
「分からないことは何でも聞いてね、お隣さんだし、よろしく」
にこにこと人当たりのいいスマイルを振りまく彼女。
「あ、はい、です。よろしくお願いします」
その子はまさに、夢小説のヒロインのような子でした。

その後、廊下にいたお姉さん方もぞろぞろと部屋に入ってきて自己紹介をしてくれた。
ただ人数が多くて私の頭のキャパ不足により全員覚えられた自信は全くないんだけどね…。
でも、最初に私に話しかけてくれた子、桜だけはばっちり覚えた。
ちなみに同い年だって!やったね!


「じゃあ明日も早いし、そろそろお暇するね」
そう言ってぞろぞろと女中の方々が出ていく。
「じゃあね、
「ちょ、ちょーっと待って!」
最後に部屋を出ようとした桜の腕を、がしりと掴む。
重要な事を聞くのを忘れていた。
「な、何?」
きょとんとした顔(これもまたかわいい)で振り向く桜。
「お風呂とトイレの場所、聞いていい?」
さっそく頼ってしまってすみません。
ていうか物覚えの悪い子ですみません…。

でも桜は、にこりと笑って
「一緒に行こうか」
と言ってくれた。
そしてその笑顔も、当然のごとくかわいいのだ。






(ここは天国ですか!)




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可愛いは正義! (100810)