「ちょ、ちょっと隊長!何してんスか!」
あいつ(とかいう名前だっけ?)が倒れてから、なぜか俺が責められている。
めんどくさいから、特に反論もせずに聞き流す。
(だいたい、何で俺が責められなきゃならねェんだ)
(それより、これからどうするか、だ)


「あの…どこか寝かせられる場所ないですか」


喚く部下どもに混じって、を支えた眼鏡が控え目に発言した。







#6.

















ああ、目の前が真っ暗だ。
つい最近にも同じ光景を見た。
…思い出したくもないけども。


『おいおい、そんなこと言うなよ』


頭に響いてくる声。これも、つい最近聞いた声。
「あーまたお前か」
えーっと、なんだっけ名前…。
『好きに呼べ』
イッパイアッテナみたいなこと言うな。
「じゃあ、太郎で」
『おまっ…それ絶対考えてねえだろ!適当な名前で呼ぶな!』
なんだよ、好きに呼べって言ったり呼ぶなって言ったり。
「というか、太郎さんに失礼でしょう!
全国の太郎さんに謝れよ!むしろ総理大臣に謝れ!あと某私立中のテニス部顧問にも!」
『……まあ、なんか面白そうなことになってるようでよかったよ』
その声は、太郎は、私の訴えを流してのんきそうにつぶやいた。
「おかげさまでね…というか、私は何でここにいるの?
 もしかして死にかけてるとか!?」
『あー、ただ俺が呼んだだけだ』
沖田さんと勝負?して死ぬなんて死んでも死にきれ…ないこともないような。
でも土方さんにも近藤さんにも桂さんにも高杉さんにも坂本さんにも会ってない!
「やっぱだめだ!死にきれん!」
『だから死んでねえって…人の話聞けよ』


そんな太郎の声が聞こえたのを合図に、目の前が明るくなった。








***





そして、目に飛び込んできたのはまたもや知らない天井。
ただ、万事屋で起きた時と違うのは、
さん!」
すぐ横で私を呼ぶ声がしたことだった。
その声の主、新八は心配そうに眉を寄せている。
「大丈夫ですか?」
「ええ、まあ…」
またもや知らぬ布団の上で、私は上半身を起こした。


「あー…えーっと……
 とりあえず、どこですか?ここ」
そんな私の質問に安心したのか、彼は少し表情を和らげた。
「真選組の屯所ですよ」
「正確に言うと、その屯所の中の救護室だ」
「あ、」
部屋の障子がするりと開き、沖田さんを先頭としてさっきの隊士さんたちが入ってくる。
「起きたんなら、ちょっと付いてきなせェ 話がある
てめェらはここで待っとけ」
そのてめェら、には隊士さんたちの他に新八も入っているらしい。
結局、私だけが沖田さんに従って部屋を出た。









「あの、」
廊下を、ふたりきりで歩く。
前をすたすたと歩く沖田さんの後頭部を見ながら、私は話しかけた。
「先ほどは…すみませんでした」
「何で謝る」
沖田さんのだるそうな返事が返ってくる。
「えっと、倒れたりしてご迷惑をおかけしました…」
「お前の看病は全部あのツレの眼鏡がしてたぜィ
 あっちに言った方がいいんじゃねェか」
「そう、ですか…」
「まあ、てめェが倒れたせいで何故か俺が部下に責められたけどな」
「うっ……すみません」
(そうだ、この人はSだった…)


それより、訊きたいのは、
(私の処分とか、これからどこに行くのかとか、)
「てめェは」
私が口を開くより前に、沖田さんが話し出す。
「持久力が無ェな、あんなんじゃ一人目はやれてもその後が駄目だ」
「…はい…」
「だけど、あの集中力は使えるな
 それとそのハッタリをかませる度胸がある」
歩く速度は変わらずに、沖田さんは淡々と話す。


「まあ結論を言えば、てめェは及第点だと思うぜィ、


その一言に、足が止まる。
「…?」
私の足音が聞こえなくなった沖田さんが、振り返った。
「ええと…あの……今、何と?」
「……俺が思うに、真選組でもやってけるってことだ」
「マジですか…!」
やったよ!やったよ新八!
私沖田さんに褒められた!!
「約束だ、てめェ等が屯所に入ったことは目をつむってやる」
その言葉に、胸を撫で下ろすのもつかの間。


「まあ、てめェが本当にここに入れるかはまだ分かんねェけどな」
「ええっ…ちょ、それ、どういう意味ですか!?」
沖田さんの発言に、またもや一波乱?の予感です。






***







なんで、こんなことになってしまったのでしょう。




「つまりまとめると、そいつは腕があるから一番隊に入れたい、ってことか」
「そいうこと事でさァ、やっと分かってくれましたか土方さん」
やれやれ、と沖田さんは首を振った。
その動作に、土方さんの額に青筋が浮かんだ気がしたけど、沖田さんは気にも留めない。
「だけど総悟よォ…、その子、女の子だし一般人らしいじゃないか」
近藤さんも少し困り顔だ。


…とか冷静に状況説明している場合ではなく!
今、私の目の前には、なんと!
生近藤さん&土方さんが…!
(生だよ!二次元が三次元に!!)
なんて素敵な光景!
こうなる経緯をさくっと思い出すと、こんな感じ。


沖田さんは、私を連れてある部屋の障子を少し開けた。
そして、部屋の中に何か話しかけたと思うと、障子が大きく開いた。
その陰からめんどくさそうに出てきたのが、土方さんだった。
土方さんは私をちらりと見ただけで沖田さんと並んで歩きはじめた。
私はというと、初めて生で見た土方さんに興奮してたわけなんだけどね…。
それから、この部屋の前で二人が立ち止まり、
沖田さんが障子に向かって、話がある、と言うと中から近藤さんが現れて、
ちょっと驚いた顔をしてから私たちを部屋の中に招き入れて、
そして今に至る。回想終了。


上座に座る真選組のツートップに、私の斜め前に座る沖田さんは開口一番、
「コイツを一番隊に入れたいんでさァ」
と言い放った。
それから簡単に(主に沖田さんが)説明して、冒頭に戻る。
ツートップは相変らず渋い顔だ。


(何で私はこの二人の前に突き出されてるんだ)
つまるところ、「私を真選組に入れる」という約束は沖田さんが勝手にしたものであり。
当然局長と副長の許可などあるはずもなく。
(この交渉しだいってことですか…)
まあ、思い返してみれば、
(この出来事の発端は私なんだけどね)






重い沈黙の中、土方さんが煙草を取り出して火をつけた。
「まあ、総悟が認めたってんなら、そいつの腕は確かなんだろうな」
煙を吐きながら、静かに言った。
「だが、そいつの素情がはっきりしないのも確かだ
 攘夷派の息がかかったモンじゃないという証拠も無え」
ぎろり、と鋭い目と視線が合う。


「その時は、俺が責任もってこいつの息の根を止めまさァ」
あっさりと、沖田さんは言った。
でも、まあ、それはきっと本気なんだろうな。
ぞくり、と寒気がしたのは秘密です。






「分かった」
近藤さんが、ため息をつきながら言った。
「そこまで言うんだったら、入れてあげようじゃないか、トシ
 この子、身よりもないって言うし」
「……近藤さんがそう言うんなら、俺は反対しねェよ」
近藤さんの問いに、土方さんは少し諦めたように紫煙を吐き出した。
「ただし、いきなり総悟の隊に入れる訳にはいかないな
 そうだな…最初は見習いみたいな感じでどうだ?」
ニカ、と笑いながら近藤さんは言う。
つまり、
つまるところ、


「入隊許可、出たようだぜィ」
沖田さんが肩越しに最終結果を教えてくれる。


「あ…ありがとうございます!!」
勢いよく下げた頭が、畳についた手に思いっきり当たったけど、気にしない。
(だってだって、)
(憧れの真選組だよ)
(どうしようもなくドリーム小説的展開だよ!)
まあ、うまくいきすぎてる気がしないでもないけど…。









(これはいろんな展開を期待しても、いいよね!)




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どうしようもないほど王道的展開(笑)(090325)