なんだか、よく分からない人だ。


まあ、話してることもよく分かんないけど。
あれも本当のことか分かんないし。


僕たちのことは知ってるらしいけどなんで知ってるのかは言ってくれなかったし。



まあ、悪い人じゃないと思うけど…。
それにしても、あの真選組の屯所に行きたいだなんてねえ…。





#.4




「真選組の屯所…ですか?
 結構距離ありますよ?」
「そんなの愛で乗り越えて見せます!
 さあ新八!行きましょう!!」
「あーもー……ハイハイ」
そんなやり取りを繰り返しつつ、真選組屯所に到着。
確かに、けっこう遠かった。




真選組屯所、と堂々と書かれた看板が 目の前に。


これ…記念に持って帰っちゃ駄目かなあ。
「と思うんですけどどうですか」
「いや知らないっスよ。
 どうですかって何がだこのやろー」


「ちょっとちょっと新八くん。
 私いますっごいテンション高いんだが」
「あーそうですか。
 頼みますから警察とかの厄介になるようなまねはしないでくださいね」
「ぱっつぁん冷たーい」
はあ、と新八が溜息をついた。
「…僕、ここの人たち苦手なんですよ」


「ねえねえ、中覗いてもいいかなあ、入っちゃ駄目かなあ!」
「怒られるでしょ…って聞いてませんねあなた」
残念ながら、新八がそうつっこんだときには私はもう屯所の中に足を踏み入れていた。




スゲー! スゲー!!


そして私はテンションMAXなまま屯所内を歩いていた。
不思議なことに、誰とも遭遇しない。


すぐ後ろに新八が走って追いついてきた。
「ちょ、ちょっとさん!?
 マジやばいですって、早く出ましょう」
「ええーもうちょっとだけー…」
私が言い訳の一つでも口にしようとしたその時、


「オイ、ちょっと、そこの二人」
背後から声をかけられた。
そんな急襲に、
「うへっ!」
「あああすみませんんん!」
へんな声を出したのは私。謝ったのは新八。
まあ両方ともとった行動は同じだったけどね。


つまり、エスケープ。
日本語で言うところの、逃走。全力ダッシュ。




「待てやコラァ!」
後ろから聞こえてくる声なんて一切スルー。
「待てって言われて待つ人はいませんよォオ!」
「ンだとこのやろオォォ!!」
「ギャアァァア!!!」


さらにスピードアップした追手に、こちらもスピードアップ。
屯所内を走り回る。




「ちょ、さん、大丈夫ですか?」
新八が少し息を切らしながら聞いてきた。
「え?何が?」
「た、体力、とか、」
「大丈夫っすよー私、体力だけが取り柄なんで」
「あ…はあ……そうっすか…
 ところで、僕たちどこに向かってるんですか?」
「どこって…外?」
「それってこっちなんスか?」
「え……新八知っててこっち走ってんじゃないの?」
「え……僕知らないよ…ってえええええええええ!?」
どうやら私たち、まさかの迷子のようです。





走り回ること数分。
なんだか追手も増えてる気がする。
あっちだ!とか、もっと人呼べ!とか、そんな声が飛び交っている。
そして私も、体力に自信があるといってもそろそろキツくなってきました。


「な…なんか、やばい…感じ?」
「今更ですよ…あーもー…大人しく謝りましょう」
新八が弱気に呟いた。


「何言ってんだいぱっつぁん!
 ここまで来たら逃げ切りたいじゃん?」
「いらねェェエよそんな目標!
 ってあああああ挟まれたアアア!!」
確かに新八の言うとおり。
目の前にも憧れの黒い制服が3人ほど。
そしてみなさん、何だか怒っていらっしゃるようで…って、そりゃあたりまえですか。


私は、すう、と息を吸い込んで気合いを入れた。
「ボーイズ!ビー!アンビシャース!!」



目の前にいた一人の右をぎりぎりですり抜け、
私を捕まえようと伸ばされた残り二人の手を、上体を倒してかわす。
そして、走り続ける。


「ガールズも忘れずにっ!…って新八?」
聞こえるはずのツッコミが聞こえず、あたりを見回してもあのメガネが見えない。


まさか、と思って後ろを見ると、案の定新八が黒い制服に捕まっていた。




ああ…新八…あなたの犠牲は忘れません……。


心の中で冥福を祈り、目線を前に戻したとたん、


「アンタ、いい加減にしなせぇ」


感情の無い声と、目前に迫った何か。
「どわわわわ!」
それが鞘に入った刀だと分かったのは、紙一重でなんとか避けた後だった。
無理やり横の飛んでかわしたせいで体勢が崩れ、転ぶようにして止まる。


「危なっ…!」


振り返ってその刀を持つ人物を見ると、私の思考は一旦停止した。


「まったく、うるさくて昼寝もできやしねェ」


めんどうくさそうにつぶやくその人は、真選組の、一番隊隊長の、


「お、お、おおおお、おっ沖田、さん」
「…あんた、俺の名前知ってんのかィ。俺も有名になったもんだなァ」
ずい、と半目で睨まれる。
「いや、あの…その、」
「まァいいや、とりあえず確保っと…」
「あ…」


その隙に、というか私が勝手にうろたえてる間にがしりと襟首を掴まれた。
(まさかそのまま引っ張ったりしないよ ね !)
と願ってもむなしく、お約束通りずるずると引っ張られる私。


「ちょ…あ、歩きます、逃げません、から…離してエエエ!!」
これは見た目以上に苦しいものでした。





***





「じゃあとりあえず名前。あと、お前ら未成年だろ?保護者の連絡先も」
じろり、と上から睨みを利かせる隊士さんA。
目の前にいるAの他にも、私たちの周りには4人の隊士さん、それぞれB、C、D、Eが囲むように立っていた。
そして、少し離れたところに沖田さん。


真選組屯所敷地内、庭?の一角で私たちはそんな境地?に立たされていました。
いや、座らされていました。

隣で新八が目も虚ろに姉上に何と言えば…、とか呟いている。



最初にこの中に入ったのは私。
つまり、新八を巻き込んだのも私で、責任は私にあるということだ。


(頭悪くったって、そのくらい分かるもんね)


だから私は、腹をくくった。





「入りたかったんです」


「だから、ここは入りたかったとか、そんなんで入っちゃだめな場所なの。
 分かってる?それより、」
うんざりと続こうとした台詞を遮って、私は口を開いた。




「私、真選組に入隊希望です」








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名前変換2箇所のみ…(090119)