「まあそういう訳だから、よろしく」
「ちょ、お父様?何がよろしくなのかまったく話が見えないのですが」
「だから、お父さんとお母さん、今回仲良くドイツに行くことになったんだよ、2年くらい」
もちろん仕事でね、と母親が付け足した。
「で、お前だって一人はさびしいだろ?だから一緒に行こうってことだよ。ねー母さん」
「ねーあなた」


ふっっざけんじゃねえェェェこの万年新婚夫婦がァァァ!!!!





♯1.





「え?で、結局はドイツ行かないの?」
部活が終わり、帰り道。友達と暢気に喋りながら帰り道を歩いていた。
いつも部活終了時間ギリギリまでやる我が剣道部顧問のせいで辺りは暗い。
「もっちろん。だって子供の意思全てシカトだよ。ありえねーっつーの。
 だいたいさ、英語すら平均点ギリギリの私がドイツ語なんてできると思ってるの?
 娘の成績見たことあるんですかって感じ」
「あはは、まあはウチのエースだもんねーいなくなったら困るよ」
「…顧問にはお前は実用的過ぎて使えないって言われたし実際試合だってそんなに成績良くないけど?」
こんなエースはいないっていうかエースじゃねぇよ。
「でも強いじゃん」
その一言で片付けるのか、我が友よ。
「そーかねぇ…それに、さ……」
「なになに?私と離れるのが寂しい?」


「漫画の新刊買えないじゃん」


「…このオタクめ」
かわいい顔してなかなかきつい事を言うな、我が友よ。
オタクだっていいじゃない、腐女子だっていいじゃない!




まあそんな感じの人間なんです私は。
銀魂ラバーの、世間一般で言うところのオタク、もっと詳しく言うところの腐女子。隠れだけども。
親は共働きで夫婦仲は超良好。むしろバカップル。
部活は剣道部。ぶっちゃけ新撰組の影響です。
この度、両親の海外転勤によりめでたく一人暮らしとなりました。
人間、一人でも何とかなるものだね。文明の利器万歳!





マンションの前で友達と別れて誰もいない我が家へ帰る。
「ただいまー」
返事なんて無いって分かっててもついつい言ってしまう。
鞄を部屋に放り投げて、夕食は何にしようかと思い冷蔵庫を開けたらろくな物が入っていない。
「うっわーそういえばこの前の日曜は部活のせいで買い物行きそびれたんだっけ…」
しょうがない。
「近くのコンビニ行って…今日の晩ご飯はカップラーメンでいいや」
私は制服姿のまま財布を引っつかんで家を出た。



そういえば今月は銀魂新刊が出てたな…コンビニのついでに本屋に寄ろうかな…いやいや先に本屋に行こうか…。
そんなことを考えながら横断歩道を渡る。
突然、視界の左端にまぶしい光が入った。
反射的に顔を向けると、やたら派手なトラックが近づいてくる。
…何だっけ、名前。…そうだ、あれだ、デコレーショントラック、略してデコトラ。


アレ、ちょっとちょっと、もう横断歩道間近なのに減速する気配ゼロなんですが。
アレ、え、ホントに?赤信号なのに?
ちょっ、まっ…!


視界いっぱいに光が広がる。


あはは、明日の朝刊の一面は「女子学生、デコトラに跳ねられ死亡」とか?
あはは、笑えねー!


まだ銀魂の新刊買ってないのに…!!死んでも死に切れるかっ!


残念ながら、私の意識はそこで途切れた。



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書き直しました(080419)