あの時へ
あの場所へ
もう一度
もう一度。
Again
この場所に来るのは何年ぶりだろう、と石段の前では考えた。
同志たちと別れたときから一度も訪れていない場所だ。あるいは訪れたくなかったのかもしれないが。
所々崩れている粗末な石段をゆっくりと上る。一段上がる度に持っている花束がガサリと揺れた。
短いそれの上にはかなり朽ちかけた大きな門があった。老朽化している以外は記憶しているものと違わない。
強いて言えば草木が伸びていることだろうか。まあ、あたりまえだが。
いろいろと思い出溢れる門を潜り境内に入ると、立派な本堂があった。
当然、かなり古びていて人の気配など微塵もなかったが、崩れずにその威厳を保っている。
裏庭だったはずの―今はどこも草木が生い茂り、区別がつかない―ところに回り込んでみると、背の高い雑草に混ざって一つの人影が見えた。
一瞬天人か幕府の役人かと思ったが、その特徴有り余る髪にその疑いは消えた。
銀色の天然パーマは昔そうしていたようにただ空を見上げていた。
久々に見る顔だった。
ガサガサと草を掻き分けて進む。すぐに草の臭いに包まれた。
と、向こうもその音で気付いてこちらを向いた。
「よう、白夜叉。久しぶり」
軽く片手を上げて挨拶。
「その名前で呼ぶなっつったろ、」
「細かいことは気にしない気にしない。んで何?君も墓参り?」
「…も、てこたァテメェもか」
「まあそんな感じ。彼岸だしね」
「そーだな」
白夜叉、もとい銀時はそう言ったきり黙ってしまった。はそんな銀時を尻目に、中庭だったところの奥へと進む。
そこもやはり雑草に覆われていたが地面にある無数の小さな盛り上がりは確認することができた。
ここは昔、この寺を拠点としていた頃に、死んだ同志たちを埋めていた場所だった。
は座り込むと、花束を足元に置いた。
その拍子に真っ白な菊の花びらが数枚、地面に落ちたが、は気にせずそのまま手を合わせて目を閉じた。
十秒ほどそのままでいた後、目を開けると隣に銀時がいた。
着物の裾が地面に付くのも構わずにと同じ様に座り、手を合わせていた。
「何してんの」
は横目で銀時を見ながら問うた。
「いや、ついで」
銀時は目を閉じたまま答えた。
「あ、そ」
そしてまたは目を閉じた。
「白は今何やってんの?」
それから暫くの後、廃寺の縁側に座っては隣に聞いた。
「オイ白って何だシロって。俺は犬ですかコノヤロー」
「だって白夜叉って言うのめんどくさいんだもん」
「銀時って呼べばいーんだよ。ったく、昔は遠慮なく人の名前散々呼んでたくせに。今更かしこばるんじゃねェよ、」
銀時の大きな手が不躾にの頭を掻き回すように撫でた。
「…あーハイハイ分かりましたよ。んで、銀時は今何やってんの?」
「万事屋…何でも屋みてーなのをやってる」
「ふーん」
この男らしい、とふとはそんな事を思った。
「そー言うお前は何やってんだ?」
「適当な店で働いてるよう…な気がしないでもない」
は適当に言った。
「んだよそれ」
銀時がいつもと変わらない口調で言い放った。
「まあフツーに生活してるよ」
「ふーん」
あの頃には考えられなかったフツーの生活。だれも戦争などせず、街中を普通に天人が行き来する生活。
「ホント、変わったよねェ」
「江戸がか?」
「この国もこの国の人たちも。でも…あんたはやっぱり変わらないね、白夜叉」
銀時はめんどくさそうに目を閉じた。
「…テメーもな」
一瞬だけ間が空き、
「そりゃどーも」
小さく笑いながら、は応えた。
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あとがき。
なんというか、ものすごい久しぶりの三人称。
練習みたいなものです。
まあ…内容については何もいいません。
練習みたいなものですので。
それにしてもアレですね。
夏は暑いですね。
060709 緋桃